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九○年代半ば以降だけを見ても、新興国は九四年から翌年にかけてのメキシコ(テキーラ危機)、九七、九八年のアジア、その余波が及んだロシア、そして二○○一年から二○○二年のアルゼンチンと、少なからぬ頻度で経済の大停滞を伴う「危機」を経験してきた。 こうした悪役を演じるお荷物的な地域が存在しなかったことが、二○○四年来の新興国全体の成長率を高める一つの背景となってきたのだが、二○○八年九月以降、グローバル金融市場の混乱が深刻化する中で、複数の国がIMFなどに資金援助を要請する事態に立ち至っている。
また、二○○八年の夏場までは資源価格が急騰したこともあり、資源の有無によって新興国が勝ち組と負け組に二極化するといった見方も存在した。 実際、株価が反落に転じた時期は負け組と目された非資源国(工業国)が先であるし、BRICS四カ国について言えば、インド、中国の景気が二○○八年初めから減速過程にあった一方、ロシア、ブラジル経済は夏場まで絶好調と言ってよい。

グローバリゼーション下の新興国ブーム「強くなった新興国経済」に対する信頼感がデカップリング論の背景にあったわけだが、二○○四年以降の成長加速が何によってもたらされてきたのかを振り返れば、デカップリングが本来成立し得ないことを説明するのは困難ではない。 まず指摘できるのは、輸出の果たした役割は限定的だったということである。
新興国全体の輸出数量の伸びは二○○二年から二○○四年まで加速した後、伸びは高いながらも減速傾向にあった。 そしてこの間、輸入の伸びが輸出の伸びを上回り続けてきた。
成長加速を牽引したのは、輸出であるよりは増大する輸入の背後にある内需であったということである。 しかし、二○○八年七月以降の資源価格の反落は、従来の負け組を勝ち組に転じさせることはなかった。
二○○八年末の時点では、デカップリング論にとどめが刺されただけでなく、二極化論も破綻、新興国は勝ち組なしの総崩れに向かっている。 新興国経済の行方は、グローバル金融危機の帰趨を占う一つの焦点にすらなっている。
こうした内需の強さが「デカップリング」論を生んだ背景にあったのかもしれない。 牽引役は輸出ではない。
従って、アメリカがくしゃみをすれば肺炎にかかっていた昔の新興国とは違うというわけである。 しかし、その内需の強さは、実のところグローバリゼーションの深化の一断面にほかならないものであった。

内需の中でも主たる牽引役を果たしたのは投資である。 地域別の投資率(固定資本形成/GDP)を確認すると、そのレベルでアジア地域が突出して高い状況に変わりはないが、ラテンアメリカやアフリカなど、広範な地域で投資率の上昇が観察される。
そして近年、先進国と新興国との間では投資率の二極分化が続いてきた。 ITバブルの崩壊を受け、二○○一年、二○○二年と世界全体の投資率が停滞した後、新興国の投資率が急速に高まる中で、分かりやすいのが先進国企業の生産拠点の移転などを含む直接投資だが、それだけではない。
例えばブラジルは二○○七年にIPO(株式新規公開)ブームを経験した。 同年のIPOは五三七億レアル、二六○億ドル相当に達したが、その七割は外国人投資家に買われていったとされている。
これは、こうした海外からの活発な資金流入なしには、IPOブーム自体が起こらなかった可能性が高いことを示唆しているし、となれば、ブラジルの現地企業が潤沢な資金を元手に旺盛な設備投資を行うことも難しかったであろう。 ブラジルの例は、「外需」依存度が低い国であっても、新興国の「外資」依存度は総じて高く、見かけ上「内需主導型」の成長路線を辿ってきた国であっても、その内需の拡大がグローバリゼーションの深化の結果であったことを示している。
さらに、そもそも中国経済における投資の多くも、輸出という外需をターゲットとしたものである。 したがって、中国経済は表面的に見える以上に外需、グローバリゼーションに依存していたのである。
新興国ブームを演出したのは明らかにグローバリゼーションであった。 世界的に分業体制が密になる中で、自国の立ち位置を確立した国ほど、グローバリゼーションの恩恵を受けることができた。
そして、これは、来るべき回復を展望する上でも欠かすことのできない視点となろう。 それはIT景気に沸いた九○年代後半のレベルに回復することがなかった。
これは、マルチナショナルな企業などを巻き込んで、投資の場の先進国から新興国へのシフトが続いてきたことを示唆している。 二○○八年の秋に新興国を襲った第一波は、大々的な資本の流出であった。
無論、それ以前にも随所に不穏な兆候は見られた。 中国の株式市場が下落に転じたのは、そこから一年遡る二○○七年秋のことである。

二○○八年初頭には、インド株式市場もピークアウトした。 国内市場における外国人投資家のプレゼンスが比較的大きいインドについては、ほぼ同じタイミングで、外国人の売り越し基調が鮮明化している。
しかし当時は、既述の資産の有無による「二極化」論が生きていた。 したがって、新興国がすべて不調になるとは考えられておらず、異常な資源高の是正が、新興国間のアンバランスを是正すると考えられた。
やはり、共倒れ、勝ち組不在の状況が明らかになったのは秋以降であったと見なせよう。 資本流出が多くの新興国の外貨準備の減少にはっきり表れ始めたのも、二○○八年九月、一○月であった。
第一波の資本流出は、九七〜九八年のアジア通貨危機などとは異なり、新興国自身のファンダメンタルズの悪化をマーケットに突かれたものとは見なしがたい。 起点はアメリカをはじめとした先進国である。
アメリカにおける大手金融機関の破綻は、何よりカネ、特にドル資金の著しい逼迫をもたらした。 そうした中で、換金可能な株などの金融資産が叩き売られ、貸出が回収され、それは新興国の各通貨から主にドルに転換され、国境を越えて流出した。
さらに、金融機関の破綻が現実になってしまったことで、次はどこだという疑心暗鬼が市場に蔓延したことも、流動性の逼迫を深刻化させた要因であろう。 余剰資金を抱えている金融機関がその放出をためらうようになり、銀行間の資金を融通する短期金融市場が麻揮し、国際的な銀行間の金利を表すロンドン銀行間レートLIBORなどの市場金利が急騰した。
新興国の株式が売られ、為替レートが急落したのは、こうしたストーリーの一局面である。 ただし、ニ○○八年ニ月には、短期金利の急騰局面も一応の収束を迎えている。

それに伴い、新興国通貨の対ドルレートの急落、株価の怒涛の下落も一段落しており、パニック的な状況はひとまず収まったと見なすことができる。 FRBによるドルの大々的な供給政策などが奏功したということであろう。
流動性を巡るパニックは山を越えたとはいえ、三カ月物金利のプレミアムは高止まったままである。 市場参加者は三カ月という期間に対してさえ、リスクプレミアムを要求する状況にある。
市場取引が正常化したとは言いがたい。

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